サポーター

「よ~し、じゃあ少し休憩入れようか」

工藤の声で由香里はやっと胸を隠すことができた。

(やっと終わった・・・)

各々が適当な場所を見つけて座り込む。カメラマンは工藤の傍に行って何か話し始めた。由香里は隠れるようについたての向こうに移動した。まだ緊張しているのか、自分の足で歩いている気がしなかった。

ついたてに隠れてほっと一息つく。自分の胸を見下ろすと、「スポーツブラを着けている」というのは言葉だけで、ピンク色の乳首まで露になったそこは何も着けていないのと同じに思われた。今の今までこんな格好で写真を撮られていたのだと思うと、恥ずかしさで顔が紅潮した。

(早く着替えよう)

そう思って由香里がブラに手を掛けようとした瞬間、工藤から声を掛けられた。

「この後はサポーターを穿いてもらって下と全身を撮影するから、上はそのままで下はこれを着けて」

「あ、はい」

再び紙袋を渡される。上はそのままと言われて動揺したが、何事もなかったかのように返事をする。恥ずかしいが仕方が無い。これ以上の失態は何としても避けたかった。

サポーターという言葉を聞いて、由香里は新体操をやっていた時にレオタードの下に着けていたサポーターを思い出した。当時着けていたのは、ベージュのショーツという感じのものだった。

(たまにレオタードからはみ出すなんてこともあったっけ・・・)

そんなことを思い浮かべてしまう。新体操では、競技後退場するまでにレオタードの食い込み等を直す行為は非常に見苦しいとされている。そのため、サポーターがはみ出したり、レオタードがお尻に食い込んでも退場するまでは直すことができない。今となっては懐かしい思い出だが、当時はかなり恥ずかしかった記憶がある。

(どんなサポーターなんだろう)

無意識のうちにかつて使っていたサポーターに近いものを想像していた由香里だったが、袋から取り出したものを見て愕然とした。

紙袋の中に入っていたのは、超ハイレグのパンティと言ってよかった。白のごく薄い生地で出来ており、腰のゴムの部分はまさにゴム紐を布で覆っただけという形だ。股間を覆う布は少し幅が狭く、生地もメッシュになっている。かなり透けるであろうことは容易に想像できた。お尻の部分に関しては、もはや紐と言ってよかった。

(な・・・こんなの、穿けるわけないわ)

紙袋の中の「ヒモパン」を目にして、由香里は素直にそう思った。こんな破廉恥なサポーターを身に着けるなど、仕事とはいえできそうもなかった。サポーターを手に持ったまま固まってしまう。だが、そんな由香里のことなどお構いなしに、工藤の声が響いた。

「もうすぐ始めるから。着替えて!」

由香里がハッとなってついたて越しに部屋を見回すと、いつの間にか由香里待ちの状態になっていた。スタッフ全員が由香里の方を見ている。改めてサポーターをまじまじと見詰める。一体だれがこんなものを開発したのだろう。名前も顔も知らないが、開発者を思い切り殴ってやりたいと思った。

「どうしたの?」

「な、なんでもありません」

「早くして、みんな待ってんだから」

「は、はい、すぐ着替えます」

工藤の言葉に押されて由香里は自らを追い込んでしまう。着替えたくないと思いながらも、動かないわけにはいかず、ジーンズのジッパーに手を掛けた。ぐっと力を入れてジーンズを膝まで降ろす。ついたての下から由香里の白い太腿が覗いた。由香里は右足で片足立ちになって左の足首からジーンズを抜く。そして今度は逆の足で片足立ちになり、足に引っかかるように残っていたジーンズを完全に脱いでついたてに掛けた。そこまでした後で由香里はあることに気付いて後悔した。

(この状態で脱いだら、パンティが見えちゃう)

ついたての下が50cm程あいているので、どんなに頑張っても足首からショーツを抜く時に見えてしまう。

(できるだけ急いで、パッとやれば・・・)

由香里は手早くショーツを脱ぐ事で、目に触れる時間を短くしようと考えた。ショーツのゴムに手を掛けた後少し間を置いて、一気に降ろした。真っ白なお尻と、面積は大きくないが確かに存在する恥毛が露になる。ついたてがあるため男達には見えていないはずだが、紐状になって脚に引っかかる薄いイエローのショーツが下から覗いている以上、ついたての向こうにいる由香里がどんな状態なのかは丸わかりだろう。

(早く・・・)

落ち着こうとしても気持ちが焦ってしまう。いつもならすぐに抜けるショーツが足首に引っかかり、なかなか抜けなかった。バランスを崩しそうになって、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねるような形になる。何とかショーツを脱いで隠すようにジーンズの下に入れる。焦りと緊張で身体が熱くなっているのがわかった。右手で握りつぶすように持っていたサポーターを手にとって広げる。何度見ても恥ずかしいが、ここまできて穿かないわけにはいかない。急いで右の足首を通す。そして左の足首───

ガシャン!

一瞬何が起きたのかわからなかった。突然の大きな音にびっくりして身体をすくめる。何が起きたのかついたて越しに部屋の中を見渡そうとした。だが、そこについたては無かった。

「きゃあああ!」

由香里は反射的にしゃがみこんでしまう。ついたては倒れ、そこに掛けてあった由香里の衣服も床に散乱してしまっていた。黒いTシャツと青いジーンズ、そして薄いイエローのブラとショーツも顔を覗かせている。そしてついたてが倒れたことで、由香里はその白い肌を完全に男達の目の前に晒すことになってしまった。

男達の視線がほぼ全裸の由香里に集中する。由香里はしゃがみこんだまま動けなくなってしまった。だが、しゃがみこむことで胸と股間は隠せても、まっすぐな背骨のラインからつながる白くて可愛いお尻が丸見えだった。

「ほら、何やってんの!早くして」

工藤の容赦ない声が飛んだ。こんな状態になっても、由香里に対する気遣いは微塵も感じられない。河合がついたてを立ててくれたので、由香里はなんとか着替えを終えることができた。河合がついたてを立てる時に釣り糸のような細い糸を始末したことに、由香里は気付かなかった。

「よーし、始めよう!」

早鐘のように打つ鼓動がおさまらないうちに、撮影開始が告げられた。

「もう少し斜めに・・・壁にもたれかかるような気持ちで立って・・・そう」

恥ずかしいブラとショーツを身に着けていることよりも、ついたてが倒れた余韻で動悸がおさまらない。カメラマンの声に合わせてポーズを取るが、姿勢を保つのが大変だった。胸を隠すように腕を組んでいたが、全身の写真はまだなのか、何も言われなかった。

「じゃあ、Y字バランスお願い」

カメラマンの声で由香里は息をのんだ。Y字バランスというのは、片足立ちになってもう一方の足を横に高く上げる体勢だ。立っている足、上げている足、上半身の3つでYの字の形になるのでそう呼ばれる。

(この格好でY字バランスなんて・・・)

自らの股間を覗き込むことはできないが、穿く前に見たメッシュ地の目の粗さは、由香里のそこを曝すのに十分な気がした。

「Y字バランス。経験者なんだからできるでしょ?」

「は、はい、大丈夫です」

心とは裏腹な返事をする。メッシュ地のスケスケのサポーターを穿いてのY字バランスを命じられた由香里に、助け舟を出してくれる者は居ない。由香里は部屋に居るスタッフ全員が自分をいやらしい目で見ている気がした。

由香里はきゅっと唇を結ぶと、踵を持ってゆっくりと右足を上げ始めた。少しずつ右足が高く上がってゆき、脚が180度近くまで開いたところで止まる。そして左手を真っ直ぐ上に伸ばす。見事なY字バランスが完成すると同時に、スポーツブラに支えられた2つのたわわな果実が男達の眼前に現われる。

「綺麗なY字だね~、いいよ~」

そう言ってシャッターを切ったカメラマンの動きが突然止まった。

「おいおい勘弁してよ、毛が出てるじゃんよ!」