ラブレター6
「せ、制服を脱ぐのは・・・許して下さい」
由紀は、懇願するような表情を浮かべて田原に言った。
「許す?何を?検査なんだから、早く脱いで」
「・・・・・・」
「あのさぁ、わざわざ脱ぐのを待ってあげてんだから、さっさとしてくれないかな。その制服ビリビリに破いてもいいんだよ?まあ、検査を受ける気が無いっていうんだったら、それでもいいけど」
由紀は、田原の言葉にドキリとした。もしかして、検査を拒否することもできるのだろうか。一瞬、希望にも似た気持ちが芽生えた気がした。だが、不良たちの声でその気持ちはすぐに消えてしまう。
「あれ?由紀ちゃん検査受ける気無いの?へえ・・・じゃあ、写真は大きく引き伸ばして由紀ちゃんの教室に貼っといてあげるよ」
「由紀ちゃん、優等生なのに大胆だなぁ。クラスのみんなに裸を公開するんだ」
「そ、そんな・・・」
由紀は、一瞬芽生えた希望が到底叶わぬものであることを悟った。不良たちは、最初から自分を辱めるつもりで写真を靴箱に入れ、旧校舎へ呼び出したのだ。検査なんてただの建前だろう。不良たちの言う検査に合格したとしても、写真が返ってくる保証はない気がした。
「検査受けるの?受けないの?」
由紀は、検査を受けないと言いたかった。これ以上恥ずかしい目に遭いたくはない。だが、クラスのみんなに恥ずかしい写真を公開されるのは、もっといやだった。そんなことになったら、とても学校に通うことなどできない。
「う・・・受けます」
そう言うしかなかった。不良たちがこれから何をするつもりなのか想像がつかないわけではない。だが、それはあくまで想像であって、絶対にそうなると決まったわけではない。由紀は、確実にクラスメートに恥ずかしい写真を公開されることよりも、これから行われる検査内容の不確定性に賭けたのだ。それが限りなくゼロに近い可能性だとわかっていても、そうするしかなかった。
「受けます、じゃねえだろ。こんだけ迷惑掛けてんだから、受けさせてくださいくらい言えよ」
すかさず長嶺が口を挟んでくる。中村も同意の声をあげた。
「う、受けさせてください・・・」
「そうじゃないよね。これ以上ご迷惑はお掛けしませんから、どうか検査を受けさせてください、でしょ」
今度は、田原が言った。由紀の同意など全く無い理不尽極まりない検査にも関わらず、由紀はそれを受けさせてもらう立場にされてしまう。
「まただんまりかよ。いい加減にしろよコラ」
長嶺が凄んだ。由紀は、心臓が締め付けられるような気がした。緊張と恐怖が、容赦なく由紀を襲う。
「これ以上・・・ご迷惑はお掛けしませんから、ど、どうか検査を・・・受けさせて・・・ください」
やっとの思いで田原の言葉を繰り返す。
「由紀ちゃんがお願いしてるけど、どうする?」
「まあいいんじゃないですか、受けさせてあげても。ただ、これ以上何かあったら・・・」
「そうっすね、俺もとりあえずいいと思いますよ」
田原が中村と長嶺に検査の可否を求めると、2人はとりあえずOKを出した。もちろん、田原とて最初からそのつもりである。
「由紀ちゃん、これ以上駄々をこねるようだったら・・・わかってるよね?」
これ以上駄々をこねたら、写真を公開すると言いたいのだろう。あるいは、さっき言っていたように、制服をビリビリに破かれるかもしれない。由紀の頭の中に、いくつかの想像が浮かぶ。
「・・・返事は?」
猫なで声ではない、あの無機質な声で田原が言った。その声は、緊張と恐怖に苛まれている由紀をさらに追い込む。
「は、はい」
慌てて返事をした由紀の様子に、不良たちの顔が微かに笑った。
「じゃ、スカート脱いでもらおっか」
由紀は、一瞬迷った後、震える指をスカートのホックに掛ける。傍から見ている不良たちには、由紀の緊張がありありと見て取れた。
(ぬ、脱がなきゃ・・・でも・・・いや・・・)
カチッ
実際に音がしたわけではない。いつも寮の自室で制服を脱ぐ時と同じ感触があった。ホックが外れたのだ。由紀は、脚をピッタリと閉じて、ホックの下にあるジッパーに手を掛けた。少しずつ、少しずつジッパーを下ろしてゆく。何かが引っかかってジッパーが下りないかのように、何度もそこを見たりした。とにかく少しでも長くスカートを穿いていたい───
由紀の涙ぐましい努力を嘲笑うかのように、ジッパーはすぐに完全に開いてしまった。このまま手を離せば、スカートは床に落ちるだろう。夏服のブラウスは裾が短い。スカートを脱げば、パンティが丸見えになってしまう。自分の下着を男の目に晒してしまうことになるのだ。
(もういやぁ)
誰に訴えるでもなく、ふるふると首を振った。脱がなければという意思と、脱ぎたくないという思いがせめぎ合う。由紀は、震える手でスカートを掴んだまま、動けなくなってしまった。
と、田原がゆっくりと歩いてきた。由紀の顔に怯えの表情が浮かぶ。田原は、そのまま由紀の脇まで来て止まった。由紀は、恐怖で田原の方を向くことができない。緊張で外界の音が聞こえているのかどうかもわからない中、心臓の鼓動が早鐘のように自分の耳に響く。と、その時だった。
「あうッ」
由紀の身体が一瞬前にずれるように動いた後、バランスを崩した。何をされたのか理解するより前に、由紀は床に手を着く。それと同時に、支えを無くしたスカートが落ちた。膝と手を床についた四つん這いの格好で、パンティが露になる。数秒の間があった後、由紀はお尻を蹴られたのだとわかった。
「あ・・・」
由紀は、膝をついたまま呆然としてしまう。女の子ということもあってか、今まで両親に叩かれたことはない。小さい頃から男子と遊んだこともない由紀は、暴力とは無縁の世界で生きてきた。お尻に感じる痛みよりも、スカートが床に落ちたことよりも、暴力を振るわれた、そのことがショックだった。
「あ~らら、由紀ちゃんそんなに痛かったぁ?」
「田原さん、ナーイスキック」
不良たちは、由紀が唖然とした表情で跪く様をさも面白そうにはやし立てる。そのことも由紀にとってはショックだった。今までの人生で、女の子だからと守られてきた部分もあった。だが、ここではそんな考えは通用しないのだ。
「あ~、ゴメンね由紀ちゃん。言ったそばから駄々こねるから、ついさぁ」
すぐ傍で田原の声がした。由紀は、自分でも驚くほど荒い呼吸をしていた。突然の理不尽な暴力に、涙が溢れそうになるのをぐっと堪える。
「早くしてよ」
また暴力を振るわれるのではないかという恐怖心から、由紀は何とか立ち上がった。スカートは足元に落ち、パンティが見えてしまっている。由紀は俯いたまま肩を上下させ、両手を股間の前で重ねる。少しでも男たちの視線から下着を守ろうという懸命の努力だった。
「だめだよ由紀ちゃん隠しちゃあ」
田原の声に、由紀はビクリとして両手を脇に置いて気を付けの姿勢になる。純白のパンティに覆われた股間が、不良たちの好色な視線に晒される。写真による脅迫、言葉による恫喝、そして暴力───由紀の心は打ちひしがれ、不良たちの言うことに黙って従うしかなかった。
「下着の検査だから、ついでに上も脱いでもらおっか」
田原が近づいてくる気配を感じて、由紀はとっさにブラウスのボタンに指を掛ける。ここでぐずぐずしていたら、また蹴られるかもしれない。
「返事は?」
「は・・・はい」
襟の後ろに手を回し、リボンを留めているボタンを外す。胸元から外したリボンを丁寧にスカートの上に置く。そして、ひとつ、またひとつとブラウスのボタンを外してゆく。できるだけ時間を掛けようとするが、さっきお尻を蹴られたことが脳裏に焼き付いているからなのか、あまり時間を稼ぐことはできなかった。
(まだ・・・ブラウスを脱いでも、まだタンクトップがあるわ)
由紀にとって唯一の救いは、タンクトップを着てきたことだった。おかげで、ブラウスを脱いだだけでは、ブラジャーが男たちの目に晒されることはない。だが、所詮焼け石に水である。単に不良たちのお楽しみの時間を延ばすだけだということに由紀は気付いていない。
「あれ?由紀ちゃんタンクトップなんて着てるんだ。暑くないの?」
「ばーか、由紀ちゃんは淑女だから、簡単に肌を見せないように気を付けてるんだよ」
不良たちの言葉には、必ずと言っていいほど由紀を馬鹿にしているような響きがある。由紀は、悔しさで顔を真っ赤にしながらブラウスを脱いだ。タンクトップ越しに薄っすらとブラジャーが透けて見える。田原は、真横から由紀の膨らみを値踏みするように見ながら言った。
「早くタンクトップも脱いでよ。ブラジャーの検査ができないよ」
由紀は、ぎゅっと唇を噛みしめると、タンクトップの裾に手を掛けた。膝を擦り合わせるようにして腰を後ろに引き、できるだけパンティが不良たちに見えないようにしながらタンクトップを脱いでゆく。裾を持ったまま、手をゆっくりと上げる。ヒューという口笛が聞こえた。