ラブレター3

検査という言葉を聞いて、由紀は凍りついた。ここ最近、検査という名のもとに数々の辱めを受けた。医者ならまだしも、こんな得体の知れない不良に検査されるなんて、もってのほかだった。それが正常な検査でないことは明らかだ。

「け、検査って・・・何の検査ですか」

「ちゃんと学校の決まりを守っているかどうかの検査だよ。由紀ちゃんは優等生なんだから簡単だよね?」

由紀は、田原の言葉を聞いて少しホッとした。いくら不良とはいえ、さすがに裸にされて身体を触られたりすることはなさそうだと思った。

「由紀ちゃんがちゃんと決まりを守っていたら、写真は返してあげる。それでいいよね?」

「は、はい」

そもそもそんな検査を受けなければならないはずは無いのだが、由紀はそう返事をするほかなかった。

「田原さん、こいつ生徒手帳持ってませんよ」

由紀から少し離れた壁際で、カバンの中身を漁っていたリーゼントの男が言った。

「そんなわけねぇだろ、由紀ちゃんは優等生だぞ。中村、おまえちゃんと探したのか?おい、長嶺もいっしょに探せ」

田原はニヤけた表情で、由紀が優等生であることを際立たせるように言った。その言い方には、どこか人を馬鹿にするような響きがある。2人の男は、田原に言われてニヤリとすると、再び床に散乱した由紀の荷物を漁り始めた。

「やっぱないッスよ」

最初に生徒手帳が無いと言い出した中村が言った。

「ないッスね」

長嶺も続く。

「へぇ・・・付属第一中学の生徒は、生徒手帳も持ってないのかぁ。校則で生徒手帳は携帯することって決まってるんじゃないの?ね、由紀ちゃん」

由紀は、名前を呼ばれてビクリとする。極度の緊張の中で、何とか田原の言ったことを理解する。

「今日は・・・たまたま忘れて・・・」

「たまたまって・・・常に携帯してなきゃ意味がないんだけど」

田原の言葉に由紀は何も言えない。確かに田原の言うことには一理あった。校則にもそう書かれていた気がする。

「じゃあ、とりあえず減点だな。次の検査・・・あ~っと、おまえら生徒手帳持ってるか」

「もちろん持ってますよ」

そう言って生徒手帳を取り出したのは、長嶺だった。手には、薄い緑色の表紙に青いビニールのカバーがついた、S大学付属第一中学校の生徒手帳が握られている。

「へぇ、どっちが優等生なんだかわかんねぇな。ね、由紀ちゃん」

田原は、いちいち由紀に話を振る。由紀は何も言うことが出来ずに、ただただ俯いていた。

「じゃあ、校則を適当に読んでみろ。由紀ちゃんがきちんとそれを守ってるか検査するから」

「はい、了解です・・・と、難しいな・・・・あ、本学に入学することができる者は、小学校の課程を修了した者とする」

長嶺が、校則を読み上げる。由紀は、今まで校則を破ったことは無いつもりだ。校則の細かい部分まで覚えているわけではないが、特に自分に問題があるとは思えなかった。小学校の課程と聞いて、国語や算数などの教科が思い浮かぶ。

(小学校・・・何か問題でもだされるのかしら・・・)

「小学校の課程か・・・そうだな、この問題くらいわかるはずだな」

由紀の予想通り、田原は何か問題を出そうとしているようだった。だが、その内容は、由紀が想像していたものとは大きく違っていた。

「それじゃあ問題。男の子と女の子の違いを答えなさい」

由紀は、答えに詰まった。男女の大きな違いはすぐに思いつくが、それを人前で口にするのは恥ずかしい。

「えっと・・・男の子は声が低くて・・・女の子は声が高いです」

由紀は、当り障りのない答えで逃げようとした。

「それだけ?違うよね。もっと普通に見た目で違う部分があるんじゃないの?」

田原に追い討ちを掛けられ、由紀の脳裏にある言葉が浮かぶ。だが、それを口にすることはできない。

「お、男の子の方が、背が高いです」

「それは人によるよね?男の子より背が高い女の子もいるんじゃないの?」

由紀は黙り込む。明らかに、由紀が恥ずかしくて言えない言葉を田原は言わせようとしている。

「おいおい、ホントに小学校卒業してんのかよ」

中村と長嶺がはやし立てる。由紀は、男たちが自分に何を言わせようとしているのかひしひしと感じながらも、それを口にする事ができずに俯いている。

「しょうがないなぁ、ヒントをあげるよ。女の子は、おっぱいが膨らんでて、お尻も丸くてふっくらしてるよね?」

由紀は俯いたまま、僅かに頷いた。中村と長嶺の噛み殺したような笑いが聞こえた。

「お、頷いたってことは、わかったってことだな。ちゃんと言ってみて」

「・・・お、女の子は、胸が膨らんで・・・お尻も丸みを・・・」

由紀は、やっとそれだけ言った。だが、不良たちの追及は終わらない。そんな由紀の態度を面白がっているかのように、次々と野次が飛んだ。

「おいおい、聞こえねぇぞ」

「マジ小学校卒業してねぇんじゃねーの?」

「ほんの何秒か前に言われたことも覚えてねーのかよ」

由紀の顔が悔しさで真っ赤になる。なぜ自分がこんなことを言われなければならないのだろう。自分は何も悪いことはしていない。校則を破った覚えもない。何より、ここに居る不良たちより、健全な学校生活を送っていることは間違いないはずだった。

「まぁ待ておまえら。いきなりの問題だったから、戸惑っちまったんだよ。最初くらい大目に見てやれよ」

田原がそう言うと、すかさず不良たちから「田原さん優しい」という声が飛んだ。

「いいかい由紀ちゃん、もう一回言うからよく聞くんだ。今度間違えたら、さすがにまずいよ?」

由紀は頷くしかない。それを見て田原が喋り始める。

「それじゃ言うよ・・・。女の子は、おっぱいが膨らんでいて、お尻も丸くてふっくらしています。最も大きな違いは、チン○が無くて、代わりにオ○ンコがついていることです」

由紀は、両手で耳を塞ぎたくなった。さっきと明らかに内容が変わっている。田原が自分に言わせようとしていた言葉が、これみよがしに追加されていた。不良たちの下卑た笑いの中、由紀は真っ赤な顔で俯く。

「おら、ちゃんと顔上げてはっきり言うんだよ」

田原の口調の変化に由紀はドキリとした。このまま黙っていたら、田原はどんな行動に出るか。校則を守っているかどうかとは程遠い内容の問題、明らかに由紀を辱めるための回答、そしてそれを無理矢理言わされるという理不尽さをいやというほど感じながらも、由紀はそれを口にするしか無かった。

「えっと、女の子は、お・・・おっぱいが膨らんでいて、お尻も丸くて・・・ふっくらしています。最も大きな違いは・・・・・・」

そこまで何とか絞り出すように言って、由紀は言葉に詰まった。その2つの単語を口にする事は、性に対して臆病で未熟な由紀にとって大変なことだった。まして、人前で声に出して言うなど、考えられないことである。

「やっぱり、小学校卒業したってのも怪しいなあ。こりゃ罰が必要かな?」

田原がそう言うと、中村と長嶺も調子を合わせる。罰という言葉が出たことで、由紀は窮地に追い込まれてしまう。

(い、言わなくちゃ・・・でも、いやぁ!)

「それじゃぁ罰として・・・」

「い、言います!言いますから待ってください」

由紀は、思わずそう言ってしまった。だが、結果的にさらに自分を追い込んでしまう。もはや、由紀に選択肢は残されていない。部屋がシンと静まり返る。木の枝が風に吹かれて、ザザァと鳴った。

「も、最も大きな違いは・・・・・・ち・・・チン○が無くて・・・お、オ○ン・・・コが・・・ついていること・・・」

最後は消え入りそうになりながら、何とかその言葉を口にした。だが、田原はそこで終わりにはしなかった。

「ふーん、最後の方があまり聞こえなかったけど、由紀ちゃんにはどっちがついてるの?」

「えっ・・・その・・・オ、オ○ン・・・」

最後まで言えなかった。男の前で女性の大切な場所の俗称を口にすることは、由紀にとって恥ずかしすぎた。

「よく聞こえないな」

「オ、オ○ン・・・コ・・・です」

「ふう・・・そうじゃないだろ。私、後藤由紀には、チン○ではなくオ○ンコがついています、だろうが」

(そんな・・・そんなこと・・・)

「おーい、いい加減にしろよ。1つ目だけでどんだけ時間かけてんだよ。引き延ばしてんじゃねーよ」

由紀は、悔しさで泣きそうになるのを何とか堪えた。なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないのだろう。だが、不良たちは待ってくれない。

「あと5秒以内に言えなかったら失格ね。ごー、よーん・・・」

「い、言います」

「さーん」

「ま、待ってください」

「にー」

言うしかなかった。

「わ、私、後藤由紀には、チ・・・チン○ではなくオ○・・・オ○ンコが・・・ついています、あぁっ」

由紀は両手で顔を覆った。それが不良たちの嗜虐心を煽るとも知らずに───